…良雄は、無言の重圧を感じさせるような表情で、俺の顔に焦点を合わせていた。

そしてもう一方の翔太は…


ギシッ。


…何の前触れもなく、シートから立ち上がった。


……な、何をする気……?


胸の中で大きく動揺する俺に対し、翔太はポケットに手を突っ込んだまま、ニヤニヤと笑う。

ただしその笑顔は、愉快なのか不愉快なのか全く読めない、不気味な笑顔だった。

その表情を顔にはりつけたまま、唇を歪める。


「へえ?
調子にのってるかどーかはともかくとしてー、自分の顔……全然いいとか思ってないんだー? へえー?
…謙虚だねー♪」


…すかしたような嫌な言い方。

危険かもしれなかったが、俺はまたしても言い返す。


「わ、悪いかよ…!
俺はそこまで、自意識過剰じゃない…!」


思わず出てしまった言葉に反応したのは、今もなお、直立姿勢から俺を見下す翔太のほうじゃなかった。

その隣りに座る、良雄のほうだった。

良雄の右の眉が、ピクッと反応したのが、はっきりとわかった。


先刻の静観するヤクザのような顔を、恫喝するような表情に一変させ、俺を睨みつけている。

そしておもむろに、シートから腰を浮かそうとした。


…まずいっ…!

…ただでさえ翔太が何を考えているのかわからないのに、この上良雄まで……!


焦りのせいで、冷や汗が全身から一気に噴き出すような錯覚にとらわれる。

しかし、良雄のその動作は、すぐにピタリと止まった。


…制止したのは翔太の左手だった。


遮った翔太の指の隙間から、良雄の突き刺すような目がこちらを覗いている…。