黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

そして今はもう流れ去っしまったガードレールには、赤い文字で確かにこう書かれていた。


 〔 300 K 〕


「……300、K……?」


委員長が、書かれていたそのままの文字を小声で口ずさむ。

「なんや? この道、時速300kmで走れってことなんか?」

夏樹が訳のわからないことをいう。

隣りを見れば司が、先刻までの表情とは打って変わった、思案するような顔つきで窓の外を見ている。

そして窓の方を向いたまま、考え考えつぶやくように言った。

「300m先、危険(kiken)……とか?
でも危険なら、『danger』の『D』だよな、ふつう…。
それにここは日本だし…。 …やっぱり、単なる落書き…?」


…正直な話し、今の司の発言に対して、俺は肯定も否定もできない。

というか、するための判断材料を持ち合わせていない。

俺は、裕也がもうひとつ見たという文字について確認しようと思った。


「裕…」

「あっ、あたし…!! …何か嫌な予感がする…!!」


…が、その声は、場違いに恐怖を孕んだその声によってかき消された。

声のほうを見れば、酷く青ざめた様子で司の隣に立つ、小町屋。

小町屋は続ける。


「…な、なんかわかんないけど、これから……ていうか今っ…!!
…何かよくないことが、起きてそうな予感が……っ!!」



ガタンッ。



小町屋が言い切る前に、その振動は足元を襲った。

司が窓の外に視線を釘付けたまま、声を上げる。


「い、今っ!
タイヤが何かに乗り上げた感じがした…!
…それに道路脇のガードレールがっ、さっきよりも明らかに近くなってる…!! …ていうか、近すぎるっ!!」


司の声に、ハッとする委員長。

一瞬、運転席とバス後方のどちらに声をかけたらいいのか迷った後、とっさに後方に向かって叫ぶ。



「みんなッ!!
急いで近くにあるシートや固定物にしがみついてッッ!!」



振り絞った一声がバス内に響いた、

その約1秒後──。


→【244】