黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

…裕也は、夏樹の席に座っていた。

座って、窓の外を見ていた。


……やっぱり、話しの内容が酷すぎて、少し距離を置いたのかな……?


裕也に疎外感や孤独感を与えてしまったのではと心配した俺は、窓の外を向いている裕也の顔に、優しく声をかけた。

「裕也、窓の外になんかあるの?」

少し置いて、返事が返ってくる。

「…うん、ガードレール」

窓の外を向いたまま、ポツリとそう答える裕也。


とりあえず話しのきっかけに…くらいに思って投げかけた台詞だったため、意外な返答に唖然とした。


……ガードレール……?


言ったのが夏樹であれば、『ああ、またこいつおかしなこと言ってるな』…くらいで済むのだが、残念ながら裕也は、そんな変なことを言うヤツじゃない。

確かに、山沿いのこちら側にガードレールが設置されている箇所は多くはなかったが、それほど驚くほどのものでもない。


「ガードレール?
ガードレールがどうしたの?」

重ねた俺からの問いかけに、

「さっき…ガードレールに、何か赤い文字が書いてあった…」

そう答える裕也。


……赤い文字……?

……ガードレールに……?


「赤い文字って…」

「あっ!
またガードレールに赤い文字…!」


俺の声を遮って、再び裕也が小さく声をあげる。

その声につられて、俺だけではなく、今度はその場にいた5人全員が窓の外に視線を向けた。


──窓の外の山道は、もうそのほとんどが青と黒で塗りつぶされている。

その闇の中、ほの白く横一線に続く帯。



──そして赤い文字──。



……蛍光塗料で殴り書きされたような、ぼぅ…と闇に浮かび上がる、赤い文字──。


……その文字は、視界内に一瞬だけとどまった後、その他の真っ暗な景色と一緒に、バスの後方へと流れていった。