ふいに書類から顔をあげたカイに気づいたシノが首を傾げた。

「……どうした」

「いや……何か聞こえた気がしたんだが…。気のせいだろう」

「……そうか」

その時、バンッと激しく扉が開いた。

荒々しく入ってきたのはチェレンを抱き上げているハンスだった。

一瞬で事情が飲み込めた。

「シノは医者を呼べ。ノイズ、寝室が開いてるか確認しろ。誰かが使っていてもいい。そいつをどけろ。こっちのほうが重体だ。それからチェレンの世話も頼む。ハンス、お前は寝室にチェレンを運び終わったらすぐにここに戻ってこい。事情を聞く。ジャルーヌ様に報告するのはその後だ。いいな」

皆がせわしなく行動する中、アネモネだけが人形のウサギに話しかけていた。

「黒水晶の靄かなぁ。こわいねぇ。黒水晶が動き出したんだねぇ。大変だねぇ。黒水晶に勝てるのかなぁ。どうなんだろうねぇ」