「楽しかったことも、好きだって感情も覚えているのに……。葵の表情だけ思い出せなくなる。」
「将吾………」
俺は言葉を見つけられなくて、そっと将吾の背に腕を回した。
頭の中で蓮の言葉が繰り返される。
“忘れる方だって辛いんだ。”
こういう事だったんだな…。
「忘れたくない。忘れたくないのに…………っ。」
「忘れたっていいよ。」
「え……?」
「ずっと隣にいるから。何度だって笑ってやるから。忘れても、いつだって見せてやるから。だから、俺が笑ってられるように心配かけるなよ。」
抱き合っているからお互い顔が見えなくて。
だからいつも恥ずかしがって言えない本音を、伝えることが出来た。
「葵……好きだ。大好きだ。」
「うん。」
将吾がさらに強く抱きしめてくる。
「絶対手放さない。」
「うん。」
ふと将吾の腕の力が緩んだ。
「将吾?」
肩からは規則正しい寝息。
安心したように将吾は眠ってしまった。


