「今すぐ?」
「うん!」
榊は少し悩んで、
「それは次の機会にしよう。」
と言った。
「えー!」
「今譜面もないし、それに……」
榊は至極真面目な顔で、
「大切な友人に聴かせるんだから、ちゃんと練習したい。格好つけさせてくれ。」
なんて言うもんだから、納得するしかないじゃん。
「絶対聴かせてくれよ!約束だからな!!」
「ああ、約束する。」
笑って差し出された小指に、自分の小指を絡める。
約束――。
榊と交わした約束。
この約束を榊は覚えていてくれるだろうか?
俺と交わした約束を――。
約束を交わしたのが俺だと…
明日の榊は覚えていてくれない。
あ……
なんか、寂しいな。
「神崎?どうかしたのか?」
「ううん……何でもない。」
榊が俺を忘れるのは仕方ない。
悪気がある訳じゃないんだから。
分かってる。
分かってるけど……
やっぱり忘れてほしくない。
「神崎?」
「――そろそろ昼休み終わるし、戻ろっか!」
心配してくれる視線を振り払って、俺は立ち上がった。
教室までの距離は無言で、
ピアノ楽しみにしてる
とだけ言って俺は教室へ戻った。


