「…河田のこと?」




少し間をあけて、若菜が聞く。




「…うん」





あたしもまた少し間をあけて答える。





「…まぁ、いいんじゃないの」





若菜がポッキーを一本取って、それを眺めながら言った。






「なんにも持ってなくたって、好きって気持ちだけでさ」





そして、あたしを見て少し微笑む若菜。






「あたしは嬉しかったよ。


今まで男なんてただの暇潰しの道具としか思ってなかったあんたが、真剣に恋してんの。


なんか面白かったし」





「…面白いって」





「なんか、あぁ、こいつも普通の女子だったのかって思った」




カリッとポッキーをかじる音が、やけに澄んで聞こえて。





「まぁ、あんたが性格悪いのなんて今に始まったことじゃないし、諦めれば」


「はっきり言うね…」





ガクッと項垂れるあたし。




若菜はあたしを励ましたいのか貶したいのか、どっちなんだ。





「でも…まぁ、あたしは、例えあんたが何にも持ってなくたって、嫌いじゃない」



「…若菜」



「っていうか恋愛上級者のあたしからすれば、たった一回フられただけで何簡単に諦めてんのって感じ?」



「…恋愛上級者?
あたし若菜の恋バナとか一回も聞いたことないけど」



「ちょっと黙んな」





若菜が横目でじっとりとあたしを睨んだ。






「とにかく!あんたはしつこさが足りないって言ってんの。そんで打たれ弱すぎだって言ってるわけ。

本当に好きな奴には、とことん、好きって気持ちを捧げなきゃ」





好きを



捧げる。






「…なるほど」


「わかったらもうウジウジしないでよ、うざいから」





空はオレンジから、薄い紫色になっていた。