三神結衣は“いい子”だ。


ブスだけど“いい子”だ。




きっと友達だって沢山いて、彼女を慕う人も多いのだろう。

男はあまり寄ってこないかもしれないけど、多分彼女を嫌う人はいない。




ぶつかった謝罪も、お礼も言わずに三神結衣に背を向け歩き出す。




「結衣ーっ!」





誰かが三神結衣に話しかける声が聞こえた。





柔和な雰囲気、ハキハキした口調、たぶんあたしみたいに男を、人を顔だけで判断したりは決してしないのだろう。





多分みんな、三神結衣のことを好きになる。





…そして河田も好きになった。




――『あんたみたいな顔だけ男、誰が』



『はぁ?お前こそ何言ってんの?

今までお前男の顔しか見てなかっただろ?
つーかお前こそ顔だけだし』






今朝の純平との会話が蘇る。






あたしは多分、廊下で誰かとぶつかって、その人が落としたゴミを率先して拾ったりはしないだろう。



でも三神結衣は、簡単にそれをした。



そしてたぶん河田も、同じことをする。絶対する。






何であたしより三神結衣を選ぶのか理解出来ない、とついさっきまでのあたしは思っていた。


でも、今ではそう思っていたあたしが酷く滑稽に思える。哀れにさえ感じる。





やるせない気分で、ゴミをゴミ出し場に放り投げた。



あたしの中の何かが、ガラガラと崩れていく音がした。