坂下先生の呼び出しも、余合には効果がなかったようだ。




卒業式終了後、僕は彼女を数学科教材室に呼び出した。


ノックが聞こえた。


「どーぞ。」


僕が声をかけると、余合が入ってきた。



「失礼します。」


「そこに座りなさい。」


応接ソファを指さす。



彼女が座ると、僕も隣に腰掛けた。




「最近の余合さんは、授業に集中できていないようですね。

何か、ありましたか?」


坂下先生のセリフを、一言一句違えることなく言い放つ。




うつむいていた余合が、顔をあげて僕を見た。


何かありましたか?なんて、すっとぼけたこと聞くかぁ?ってかんじの表情だ。



「って、坂下先生に言われたはずだよな?」


「はい…。」


そう言って、余合はうつむいた。



「私、あんなことするんじゃなかった。

何かもう、気まずくて話すらできないし…。」


彼女の目から、涙が零れた。


「僕は、嬉しかったよ。」


何せ、入学式で一目惚れしているのだから…。