「こんなことだろうと思った。」



手紙を読み終えた蒼先生はそう呟くと、手紙とボールペンを私に渡した。


「余合、差出人の名前はきちんと書きなさい。」



私からだと知られないように、わざと書かなかった。



言われたとおりに、名前を書く。


「良し。」


そう言って、蒼先生は私の頭を撫でた。



その手を頭に置いたまま、私の耳に顔を近づけた。


「ありがと、梨香。」



頭に置かれた手を離した蒼先生は、靴箱から靴を取り出す。



靴を履き、私の方を振り向くと


「余合、もう遅いから気をつけて帰りなさい。」


軽く手を振り、玄関を出た。




さっき、私のこと名前で呼んだ…よね?


私は、ぼーっとしたまま、立ちつくした。