「何の、ことですか?」


思い当たる節のない僕は、そう尋ねた。


「とぼけるな!

伯父が理事長の椅子欲しさに、親父を陥れる計画があるはずだ!」


その鍵を、ただの臨時教員の僕が握っていると思い込んでいるのか?



それよりも、気になるのは楔だ。


艶のある髪を顎の辺りで切り揃えている彼女に視線を移すと…楔は顔色ひとつ変えず、無表情だった。


だけど目の前で父親が悪巧みをしていると言われて、気にしないわけがないよな…。



「話を、聞いているのか!」


松戸には、僕がよそ見をしていたのが気に入らなかったらしい。


怒りに任せて、手にした髪の束を床に投げつけた。


コイツは…、何てことするんだ?


「松戸、それちょっとマズイ…。」


ほんの小さな声だけど、脩一が呟いた。




「峻兄さん、蒼先生に女生徒の人気取られて嫉妬してるから見極め誤るのよ…。」


「だったら、お前がさっさと証拠掴んで来いよ。

娘だろ!?

まさか今更、自分の父親売りたくないなんて言わないよな?」


「私…峻兄さんのこと、見損なった…。」


楔はそう言い放つと、部屋を出て行った。



じゃあ、何か?


松戸の僕に対するあの態度は、女子生徒にモテることが原因か!?


なんて、馬鹿馬鹿しい…。