9月から臨時教員として教壇に立つようになった。


半年のブランクはすぐに取り戻せたし、周りの先生方の評価も良いので、まぁ上手くやっているのだと思う。


これも、坂下先生のおかげかな…。


そう思いながら、デスクマットに挟んである写真に視線を移した。




文化祭でドラキュラの扮装をしたもので、メガネを外し前髪をおろした坂下先生のタバコに火を点ける僕…。


ブロマイドのようによく撮れたこの写真、多くの女子生徒が写真部から買ったと聞いている。


僕がこれを持っているのは、撮った生徒から貰ったからだ。



この頃には既に、坂下先生は病魔に冒されていたのだろう。


もし異変に気づいていたら、彼は助かっただろうか?



坂下先生は表立って騒がれることは無かったけれど、想いを寄せる女子生徒は多かった。




坂下先生のことを思い出すと、一緒に脳裏に浮かぶのはアンジェリーナ…。


あの家を出てから手紙を書いたが、宛先人不明で戻ってきた。


彼女は、僕を許すことはないだろう。


何故なら僕は…。


今、思い出すのは止めておこう。




ふと、甘い匂いが鼻をかすめた。


「先生も、おひとついかがですか?」


ウェーブがかった髪を肩の上で切りそろえた女子生徒が、箱に入ったチョコを見せた。



今日は、バレンタインデーだったな…。