夏、あの女が突然この世を去った。



財産と引き換えに家柄を売る形で嫁いできて、夫の愛人と同居を強いられてきた女…。


考えようによっては可哀想な人だったのかもしれない。



幼いころからストレスのはけ口に使われていた僕にしてみれば、同情することなんかは到底できなかった。





窓辺に立ち、ヴァイオリンを奏でる。


部屋を処分した際、コレだけ手元に残したのは高価な代物だったからだろう。



窓の外では、あの女の棺が運ばれていく。




部屋のドアが開き、父が入ってきた。


「自分の母親の葬儀にも出ないとはな…。」



僕はそんな雑音に構うことなく、弾き続ける。


「せっかく戻ってきたのだから、ウチで働かないか?

春に、余合という者から奪い取った会社がある。

取締役待遇だ、悪くないだろう?」



その言葉を聞き、僕は音楽を奏でる手を止めた。