卒業生全員の卒業証書を壇上で渡すには、数が多すぎる。


なので、クラス全員の名前を読みあげてから、代表でクラス委員が受け取ることになっている。




ウチのクラスの番になった。



蒼先生は卓上のマイクスタンドまで歩き、スタンドの脇に持っていたものを立てかけた。


礼服姿の、坂下先生の遺影だった。




蒼先生は、手にしたICレコーダーをマイクに近づける。


「坂下HR」


マイクが声を拾った。





「これ…坂下先生の声だよね!?」


周りが、ザワついた。




蒼先生は一旦スイッチを切り、人差し指をたてて口にもっていく。


静かにするよう、みんなに合図を送った。




坂下先生は生前『万が一卒業式に出られなかったときのため』に、卒業証書授与の際に読みあげる生徒の名前を吹き込んでいた。


蒼先生が再び、スイッチを入れる。


私と坂下先生の賭けが、始まった。




「もう坂下先生に名前呼ばれること、無いんだね…。」


そう嘆いてたみんなは、自分の名前が呼ばれると泣きながら返事をして起立する。