卒業式当日、教室に入るとみんな泣き腫らした目をしていた。


お通夜であれだけ泣いたのだから、当然かもしれない。




三つ揃いのダークスーツを着た蒼先生が、教壇に立つ。


その左腕には、喪章をつけていた。



式典では、卒業生の担任は礼服を着ることになっている。


坂下先生が入院してから担任代行を務めてきた蒼先生は、礼服で式に臨むのだと思ってた。



「蒼先生、礼服じゃないんですか?」


クラスの誰かの問いに、蒼先生が答える。


「僕は、担任じゃないよ。」


「それでも、礼服で式に出る資格あると思います。」


そうだよ、蒼先生頑張ってきたもの…。



「誤解のないように言っておくけど、学校側からは礼服着用するよう言われています。

しかし僕は、このクラスの担任は坂下先生だと思っているから、礼服は着ない。

これは僕なりの、坂下先生に対するオマージュだと理解して欲しい。」


蒼先生がそう言うと、アンジェが拍手した。



「蒼、アンタが着けてる喪章だけど、私たちの分もあるの?」


「用意はしてあるけど、着用については学校側の許可は貰ってないし、義務づけるつもりもない。

喪章を着ける生徒は、あとで大目玉を覚悟してくれ。」



蒼先生は教壇を降り、生徒一人一人の胸に造花をつけていく。



「卒業おめでとう。」


蒼先生はそう言って、私の胸にも造花をつけてくれた。



「先生、私にも喪章をください。」


「いいよ。」



左袖を摘み上げ、喪章もつけてくれた。