式のリハーサルが終わってから、蒼先生のもとへ向かう。


蒼先生は数学科教材室で1人、閉まっている窓にもたれて、コーヒーを啜っていた。



「先生は、知ってたの?

坂下先生があんなことになってしまう程、病気が重かったってことを…。」


「ん、ずっと黙っててゴメン。」


「どうして、教えてくれなかったの?」


「坂下先生の要望、だったからね…。」


「だから、お見舞いは入院を始めたころにだけ勧めたんだ?」


「何回も病院に顔出されたら、バレるからな…。」




カップの残り少なくなったコーヒーを一気に流し込むと、続けて言った。



「ただ、アンジェにはバレた。

あいつ、隠してたことをクラスで責められてない?」


「かなり、言われてた。」


「そっか…。

アンジェのこと、頼むな。

今、一番辛いのアイツだと思うし…。」


「うん…。」



だけど、蒼先生も相当辛そうだよ?



私は、背伸びして、手を伸ばすと、蒼先生の頭を撫でた。



「梨香、子供じゃないんだから…。」


蒼先生はそう言いながら、私の手首を掴んで頭上から外した。




そして、照れくさそうに呟いた。



「でも、サンキューな。」