卒業式を1週間後に控えたこの日、3年生を送る会が行われた。


私もアンジェも進路が決まっているから、楽しみだねーって言い合ってた。



今年も先生方は、劇と音楽の2本立てで参加するらしい。


だけど、昨年みたいにバンドを組むのは難しそう。


坂下先生は休職中だし、蒼先生も担任業務こなさなきゃならないから、他の先生だけで…っていうのは少し無理がある。






幕が開くと、一台のピアノとその前に座る教頭先生がいた。


もう1人ステージに登場したのは、ヴァイオリンを持った蒼先生。


蒼先生のヴァイオリンを聴くのは、今日が初めて。



近所迷惑になるからって、聴かせてもらえないんだもん。


教頭先生のピアノ伴奏で始まったこの曲は、何度か聴いたことがある。



サラサーテのツィゴイネルワイゼン…。


蒼先生の部屋でCDを聴いたこともあるけど、夏に日本人演奏家のヴァイオリンリサイタルに連れて行ってもらった時に聴いた。




そのときの蒼先生のセリフは


「僕の方が、上手いな…。」


だった。



その時はプロ相手に…って、ちょっと呆れてたけど…。



こうして聴いてみると、言うだけのことはある。


プロでやっていける程の腕前だもの…。



蒼先生が奏でる音色は、悲しい…。


何がそんなに悲しいのか、聞きたいくらいだった。




演奏が終わり、拍手をしている時、自分が泣いていることに気がついた。


涙をハンカチで拭う。



アンジェに冷やかされちゃうかな?


…隣を見たら、彼女はいなかった。