「先生。」


私は、ギターを手にして渡り廊下を歩く蒼先生を呼び止めた。



講堂内では送別会が行われているから、他の人に見咎められる心配はないだろう。




「すごくカッコ良かったよ、かなり練習したの?」


「まあね、それよりもスコア作る方が大変だった。

坂下先生、テープを何本も持ってきて

『蒼先生の絶対音感を信頼した上でのお願いです、バンドスコアを作製してください。』

…だもんな。

ただ言うこと聞くのも悔しいから、坂下先生のパートだけ難しくしてやったよ。」


「先生ったら、ひどーい!」




「本当ですね。」


その声にびっくりして振り向くと、坂下先生だった。


「今の…聞いてました?」


蒼先生が、バツの悪そうな表情をする。


「ええ。」


坂下先生は、穏やかそうな表情を崩さずに言った。



「だけど、難なく弾きこなすんですから…負けました。」


「可愛い彼女から、お褒めの言葉を頂けて良かったですね。」


坂下先生はそう言うと、校舎の中へ入っていった。





「先生、もしかして…坂下先生は、私たちのこと知っているの?」


「多分、だいぶ前から…。」


「別れろとか、言われない?」


「特に付き合いをやめるように言われたことないけど、梨香に悪影響を及ぼすと判断したら…あの人のことだ、介入してくると思う。」


「じゃあ、成績を落とさないように気をつけなきゃ。」


「頼むな。」



そう言うと、私の頭にポンと軽く手を置いた。