私が数学科教材室へ向かうと、ちょうど蒼が出てきたとこだった。


「リコは?」


「中にいる。」


蒼の表情から、梨香を泣かせたことは分かった。



殴ってやろうかと思った時


「梨香のこと、頼む。」


蒼が深々と、私に頭を下げた。



こんなこと、二度とないんじゃないか?


ケータイのムービーにでも、残しておきたいくらいだ。



そんなことされたら、殴れないじゃん。


「任せなさい。」


私はそう言って、蒼の肩をポンと叩くと、数学科教材室に入っていった。






梨香は、床に座り込んで泣いていた。



私がそばに行くと、梨香は顔を上げた。


「アンジェ…。

ただ側にいたいだけじゃ、駄目なのかな…?」


「蒼なら、どうせいくらでも待つんだから、待たせておけば良いって。

大丈夫、リコは愛されているんだから。」



…だと思うんだけど、夏休みに坂下の家で呑んでいた教師たちの会話を思い出すと、一抹の不安がよぎる。



少なくとも教師になる前の蒼は、女の肌が毛布代わりという奴だった。



あまり、長いこと距離置くのはどうかな…?