数時間後……

遥は両親のそばで笑顔を貼り付けて招待客への対応に追われていた。

ここは西園寺グループ傘下の某ホテル。

メインホールを貸し切ってのパーティーで。

招待客はそれぞれ最新の流行ファッションで着飾って談話している。

笑みを張り付けて相手の話を聞いてるように見えて、その実まったく聞こえていないのは数時間前に父から言われたことのせいだ。

誕生日の御祝会が終わり、招待した友人たちを見送って邸内に戻ってきた遥に父、彰は書斎に来るようにと一言。

普段はニコニコとしている父が珍しく難しい表情をしていたため、遥はおかしいなとは思っていたが、まさか衝撃を受けるとは思っていなかった。

「遥、今夜のパーティーは表向きはお前の誕生日パーティーとなっているが、その間にお前の婚約者候補と会ってもらうつもりだ。」

そういう父に対し、遥は

「お、父さまどうして…?私、まだ16歳なのに…婚約なんて、早すぎるわ。」

と言うが、彰は首を振る。

「いや、早いことなんてない。むしろ遅すぎた。

私個人としては娘が幸せになることを望んでいる。

遥が自分で好きな人を見つけてその人と添い遂げられたらと思うよ。

だが、西園寺当主としてはそうは言っていられないのだ。」

そういう父に遥はハッとする。

西園寺家という巨大な一族にはしがらみや権謀が渦巻いているから。

「分かったようだな。私はお前に辛い思いはさせたくない。

苦しんでもらいたくはない。」

苦悶の表情でそういう父を見ながら遥は頭の隅から記憶を引っ張り出す。

西園寺内部のゴタゴタは遥の耳にも届いていた。

詳しくは知らないし、誰も遥の耳には入れてこない。

だから分かりようはないのだが、会社内部の問題と相続問題が絡まってきな臭いことが起こってるらしい。

「そのための婚約なの?」

遥の質問に父、彰は頷いた。

「遥に後ろ盾となる婚約者がいたら治まるだろう。

幸いどの候補もだれも文句がつけられないしな。

結婚は先の話だから取り合えず会ってもらって考えてみてくれ。」

そういわれ、遥は

「分かりました。会ってみます。」

と答えるのだった。