「奈々、体大丈夫?」
次の日学校へ行くと、有紗がわたしのことを心配して尋ねてきた。
こんなに優しい有紗に嘘を吐いていることに、胸がチクリと痛んだ。
『もう全然大丈夫だから、気にしないで』
わたしは極力の笑顔を有紗に向け、元気なことをアピールした。
「そう?良かった」
有紗はわたしにそう言ってから、「あ、そういえば」と話を変えた。
「もう、クラスの人達の顔覚えた?」
『クラスの人達?……まだ、全員は覚えてないかな』
女子はほとんど全員、顔も名前も覚えた。
しかし、顔を見たことはあっても、名前と結び付かない男子は多い。
わたしは言いながら、ぐるっと教室内を見渡した。
目立つタイプの男子はもう覚えていたけれど、やはり大人し目の男子はまだわからない。
『……あれ?』
教室内を見渡していると、廊下側の席の上に置かれていた筆箱が目に止まった。
何となく見覚えがある。
わたしはうーん、と首を傾げながら記憶の糸を手繰り寄せる。
あ。
昨日、ぶつかった人だ…。

