「あれ、奈々?」
ようやくわたしの存在を思い出したように、ふっと有紗がわたしの方に顔を向けた。
『…………』
「……?」
わたしが黙っていると、違和感に気付いたらしい有紗が、心配そうな表情でわたしに近づいてきた。
「どうしたん?奈々」
有紗が、首を傾げながら俯くわたしの顔を覗き込む。
……有紗じゃない。
今わたしが「奈々」と呼んでほしいのは、有紗じゃない……。
わたしは顔を上げ、心配そうな面持ちの有紗の後ろで不思議そうにわたしを見つめる春人に向かって、口を開いた。
『わたし、奈々だよ?花井、奈々』
「?うん」
きょとんとする二人に対し、わたしの表情は徐々に硬くなっていく。
『……憶えてないの?わたしのこと……』
「え?」
突然のわたしの言葉に、びっくりする春人。
「どっかで会ったっけ?……初めて見た気がするけど……」
うーん、と腕を組んで首を捻っているが、思い出しそうな気配はない。
忘れたんだ、わたしのこと。
わたしはずっと、春人に会える日を心待ちにしていたのに。

