「あ、奈々。紹介するな。これがあたしの彼氏の、富崎春人くん。……って、もう顔は知ってるやんなぁ」
春人の腕を掴み、笑顔でわたしに向かって紹介する有紗。
『彼、氏……』
「えへへー。早く奈々に紹介したかってんけど、春人が風邪でなかなか学校こおへんから…」
ショックだった。
有紗が春人と付き合っていた、……なんて。
「ん?誰、この子」
黙ったまま呆然と固まっているわたしを見て、春人が訊いた。
『何日か前に転校してきた、花井奈々ちゃん。今日クラスにおったん、気づかんかった?』
有紗が首を傾げながら、小さく笑って春人に説明した。
「まじか。気ぃつかんかったわ」
少し驚いたように言う。
有紗に向けていた視線をわたしの方に移した。
初めて春人と視線が交わる。
春人は、わたしの目を見据えて言った。
「俺、富崎春人。よろしくな、花井さん」
にっこりと、わたしに笑いかける春人。
『………』
どうして。
花井さん、じゃないでしょ?
……前は“奈々”って呼んでたじゃない。

