「ちょっ!」
言い返そうとしたあたしは、
その背中を追いかけるように走り出すと肌寒い風が、あたし達の間を通り過ぎる。
「おい、何立ち止まってんだよ」
呆れた顔で、
あたしを見下ろす椎名冬夜を見上げた。
「帰んだろ? 早くしろよな」
そう、呆れた顔が一瞬、
笑ったように見えたのは……気のせい?
その表情に、あたしの心臓は少し速さを増す。
何だろ……この気持ち。
ムカツク奴としか思っていなかった椎名冬夜が、不器用なだけかもって思った途端、なんだか急に可愛いって思えて仕方ない。
ちょっと心配されて、待っててもらえてただけで、こんな風に思っちゃうなんて……
あたしって本当、単純なのかもしれない。

