「……離してっ」
声すらまともに出ない。
動く手で椎名冬夜を退けようと必死に押すのに、ビクともしてくれない。
「おい、落ち着けって。
……いてっ!」
あたしの顔を覗き込もうとした椎名冬夜の顔をかすった爪。
だけど、そんな事なんて関係なくて。
離して欲しい。
見ないで欲しい。
それだけで、あたしは精一杯動く。
「っち。
お前いい加減にしとけよ?」
そんな声が聞こえたと思った瞬間、あたしの唇に温かいものが触れた。
えっ?
頑張って動いていたあたしは止まり、目を見開く。
目の前にある椎名冬夜の顔を見て、キスしてるんだって気付いた。

