目覚めたときはいつも、祥子は今しがた見ていたはずの夢を覚えてはいなかった。

ただなんとなく現実で抱き続けている難しい悩みを、夢の中でも快楽を感じながらも悩んでいたような居心地の悪い感覚だけを覚えていた。

そして、その上祥子を悩ませる季節がやってきた。

急激に冷え込む朝の空気は、不快な感覚を凍らせることなく祥子の胸で燻り続ける。

隼人は低血圧の祥子を起こすことなく、いつものように早々に仕事へ出掛けていた。


心底寒いのは、隣に隼人の温もりが無くなったからだけじゃない。




瀬戸内の凍てつく寒さも、北国の人間からしてみれば『かわいいもの』なのかもしれないが、祥子にしてみれば、この季節は二重苦だった。



エアコンのリモコンに手を伸ばしかけて躊躇する。


フィルターを掃除しても、掃除しても……溜まった埃なのか花粉が入り込んでしまうのか、反応の鈍いエアコンの噴出口から風が吹き出すと条件反射のようにくしゃみを連発してしまう。



今朝はこれでもかというほど冷え込んでいた。



リモコンの電源を押すのにこんなにも覚悟が必要なものなのか。


そんなことを考えながらベッドの中から上半身だけをコタツの方へ乗り出し、エアコンのリモコンに手を伸ばした。