『片桐さん。片桐祥子さん。どうぞ』
 
待たされたのはこっちなのにと内心ムカつくほど、早口に名前を二度繰り返す看護師に着いてレントゲン室の大きなドアから中へ入った。
 
看護師の指示通りスカートを下ろし、マニュアル通りの抑揚のない口調で妊娠の有無を確認され、固い台の上に横たわった。

横に向けた祥子の顔はレントゲン技師のいる小部屋に向いていて、そこに隼人の姿があった。
  
隼人は最後の確認のときだけ祥子のそばにやってきて、そっと薄いタオルをかけてから『動かないでくださいね』と一言告げ小部屋へ戻っていった。
 
  
『はい。いいですよ』
 
  
隼人の次の言葉まで、祥子はガラス張りの小さな窓の向こうに見えるその姿を見ていた。
 
気弱そうなほど線が細く見え、髪質は触れてみたくなるほど艶やかでふんわりとしていた。
 
隼人の整った顔立ちを見ながら
(かなりの坊ちゃんなんだろうなぁ……)
と祥子は思っていた。
 
正直、好みではなかったが、道端で名前も知らない見たこともない綺麗な花を見つけたような感覚だった。