よくわからなくて、とりあえず逃げようと体を反転し、一歩足を出したら逃げないでと言わんばかりに、ななせ先輩は素早く腕を掴んできた。


力加減は、強くてたまに弱々しい。



「これ、千早に渡して」

「へっ??」

「今朝家出る時に忘れて行ったらしいの。お願い」



ぐっ、と迫られて有無も言わさずスマホを私に押し付ける。


つっけんどんで唇を尖らせて、恥ずかしそうに言うから、私は断れなくて受け取ってしまった。



別に、渡すだけだからいいよね。

ななせ先輩が持って来てくれたよ、ってたった一言だもん。

難しくないよ…。



心の中で、梶くんに言う言葉を思い浮かべてる間に、ななせ先輩は走って自分の教室へ帰って行った。


白色のスマホをポケットの中へ丁寧に入れて、教室に入る。


梶くんが来るのをなんとも言えない気持ちで待っていたら、時間はどんどん過ぎていって…気づいたらチャイムが鳴る十分前。


ぞろぞろと、クラスメートが教室へと入る中に、梶くんの姿を発見。


群青色のマフラーを口元までして、こっちへ向かってくる。私の隣の席に、梶くんが座る。