tender dragon Ⅰ


「…大丈夫だよ、希龍だもん。」

「芽衣の言う通りだって」

「…そうだよね…」

芽衣と遼太くんは何故かあたしを励ますように肩を叩いて笑顔を作る。


「みんな座れば?」

その中で蒼空くんだけが落ち着いていて、ソファに座ってあたしたちを見つめる。

「そうだな」

葉太も落ち着きを取り戻して、あたしの手を引いてソファに座った。

あたしの隣には春斗と葉太が座る。


「考えても希龍のことなんて分かるわけないし、戻ってくるまで待てばいいだろ」

さすが希龍くんの弟。

言われてみれば、あの希龍くんの考えてることが分かるわけなかった。

今までだって分かったことなかったのに。


「あ、俺ケーキ食いたいっす!」

春斗はいつものように無邪気に笑ってケーキを指差す。

これはきっと気遣い。

「じゃああたし切り分けるよ!」

「俺も食う!」

どうしてだろう。

彼がいないだけで、どうしてこうもみんな空回りしてしまうんだろう。

「希龍の分とっとけよー」

キッチンから安田さんの声が聞こえたきた。

「分かってるって。とってねぇと後で何言われるか分かんねぇしな。」

それに葉太が返した。

帰ってきたら食べるだろう。

そう思って、切り分けたケーキにラップをかけて、冷蔵庫の中に入れた。


……希龍くんがそれを食べることはなかった。

だって彼は、帰ってこなかったから。


【END】

Ⅱに続きます。