tender dragon Ⅰ


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胸が苦しくて。

この場所から逃げたしたかった。

希龍くんがあたしをジッと見つめる。


「美波…」

やだ。やだよ。

何も聞きたくない。話したくない。

だってもう、忘れなきゃ苦しいんだよ。


忘れたい、と思うことさえいけないの?

忘れようとすればするほど、あの日の出来事が鮮明に蘇る。


手の冷たさも

じわびわ広がる鮮血も

タイヤが擦れる嫌な音も

全部全部、あたしを苦しめる。

その度に、死にたくなった。


結衣がいなくなって、何度そんなことを考えただろう。でも結局あたしには、死ぬ勇気すらなかった。

結衣のところに行く勇気なんて、なかった。結衣の死を乗り越えて生きていく勇気も、なかった。

そんなことを考えていたら、何も乗り越えられないまま2年も経ってしまった。