tender dragon Ⅰ


大通りまで出てきて、はぁ、と息をつく。

久しぶりに走ったから、心臓は激しく波打っていて息は乱れていた。


そうだ、あたし結衣の家知らないや。

それに気づいたのは、歩き出そうとしたときだった。どっちに行けば良いのか分からなかったから。

迎えに行くって言ってたなぁ。

そんなことも忘れちゃうくらい、嬉しくて。結衣に会いたくて自然と足が動いていた。


きっと結衣に話したら、笑うんだろうなぁ。

何してんの、って。


着信履歴の一番上にある結衣の電話番号を押すと、プルルルと無機質な音が耳に残った。

数十秒して、「はい」と結衣が電話に出る。


「結衣、今どこ?」

『今?もうすぐ大通りだけど、何で?』

「あたしも大通りにいるの。」


案の定結衣は驚いたように"何で?"とあたしに聞く。

電話の向こうで笑ってるのが分かったから、ほんとのことを言うのが恥ずかしくて、言えなかった。