「ふわふわ」
 ちょうどスペイン坂のふもとに差し掛かった辺りで突然発せられた少女の声に、ヨシュアも私も立ち止まる。
「どうかした?」
 柔らかな髪を揺らしてヨシュアが首をかしげると、少女の小さな手が何かをうったえるようにヨシュアの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「あまくて、ふわふわなの」
「ふわふわ?」
 甘い?
「なんか、食べ物のことじゃない?」
「食べ物? お腹空いたの?」
 その言葉でこくんと頷く少女に、思わずヨシュアと顔を見合わせる。
「幽霊も腹減らしたりするの?」
 当然のはずの俺の疑問に、おかしそうにするヨシュアがなんとなく解せない。
「ふわふわってなんだろ?」
「……わたがし、とか?」
 甘くてふわふわ、だけの情報では、私はそれくらいしか思いつかない。
「うーん、この辺にそういう出店はなかったはずだけど」
 いつも考えごとをするときのように、ヨシュアが自身のくちびるをゆびで撫でる。なんてことのない仕草だけれど、ヨシュアのいつものクセだ。そうして首をひねるヨシュアのシャツを、再び少女の手が引っ張った。
「あまくて、しろくて、ふわふわなの」