「おかえりなさい、遼一くん」
「あ、美由紀さん。」
美由紀さん。隣の部屋に住んでる姉貴の友達だ。
大学院生で多少ギャルっ気のある姉とは違い、おっとりした女の子らしい人だ。
「今日、祐太クン泣いてたけど・・・。
どうしたの?」
昔からの知り合いだから、俺達の事情は知っている。
彼女の心配はいつも本気だった。
「いやぁ、ちょっとね。」
大丈夫じゃない時、何ごともなかったかのように俺は笑顔を作るのがいつもの癖だ。
だから美由紀さんは余計顔をしかめる。
「もしかしてまた、りんごが・・・。」
「いや、もう大丈夫。その辺りは」
俺はまた笑った。
「・・・本当?」
「はい・・・」
今回は不倫とかではないし、でも問題っちゃぁ問題だけど、
姉が俺の同級と結婚なんて言いにくいし・・・
と、少し目をそらして頭を悩ませていたら、
いつの間にか沈黙状態になってしまった。
お互いなんとなく気まずい雰囲気。
「あ・・・あのねシチュー作ったの。
よかったらどうぞ」
美由紀さんはわざと思い出したかのように、最初から持っていたタッパーを俺に差し出した。
「あぁ、ごめんいつも
いっ!!」
腕を曲げた途端、腕に激痛が走った。
「いっ・・・」
かすっただけとはいえ、痛いのは当たり前。
「遼くん?大丈夫?
!!血滲んでるよ!?」
「え・・・?」
ヌメッ
傷口を触ると、案の定嫌な感触がする。