「つーかお前、解くの遅い。始めてから何分経ってると思ってんだよ、この亀」

早瀬は悪態を吐きながら私の前の席の椅子を引いて、背もたれに跨がるように腰を下ろした。机を挟んで、真正面に向き合う形になる。


……うわぁ、近い。


「…この問題わかんない」
「んー?ここ微分すりゃいいじゃん」

微分したら公式に代入して。
接点はαでおけばいいだろ。


身を乗り出しながら教えてくれる早瀬の前髪が、目の前で小さく揺れる。

サラサラしていて、綺麗で、微かに香るのはシャンプーか何かの……


「集中しろ」

ベシ!

頭を早瀬に容赦なく引っ叩かれ、軽い現実逃避から引きずり戻された。

「女子を殴るな、女子を!」
「叩いただけだろ。何、殴った方が良かった?」
「暴力反対!」


……こんな調子で課題は終わるのだろうか、いや終わらない(反語)。