ファーストファイナルキス


「やばいやばい…!」
13段ある階段を急いで駆け下りる。

「母さん!なんで起こしてくれなかったのー!」

息を切らしながらリビングに行くと母さんは呑気にもテレビを見ていた。
ちなみに、ニュースじゃなくて昨日録画したであろうドラマを。

「いや、起こしたけどあんたが起きなかったんでしょ。」
「諦めないでよ!」
「自業自得」
「そんな殺生な!」
「今いいところなんだから静かに。」

うぅ…母さんを頼った僕がバカだった…
今日は中学校初日。
僕の中学校デビューの日。
なのに、よりにもよって寝坊。

現在7時23分。
友達の美玖との待ち合わせの時間は45分。
つまり22分で準備しろと。
…やってやろうじゃねぇか。

入学式っていう大イベントに僕だけ遅刻してたまるかってんだ!
クラスメートとの初対面だし!変な印象はもたれたくない!

着ていた部屋着を脱いで、
かけてあったブラウスを着る。あとはベストに靴下、あ、ボウタイも忘れたらしばかれるな。
スカートのチャックを上げて時間を見るとあと11分ある。
自己最高記録で準備完了だ!

…にしても、
僕の中学校デビューがこんなに慌ただしいものになるとは…
これはいろんな意味で思いでだわ。

「いってきます!」
食パンを片手に装備して、
(どの時代のキャラだよとつっけんでくる母さんを華麗にスルー)
筆記用具しか入っていない新品のリュックを背負い、僕は向かった。


外はまだ寒い。
というかまだ雪が残ってる。
北海道の春は春じゃない。
長い冬から短い夏に変わるための準備期間。
北海道に春は来ないのかなぁ。なんて、除雪に励んでいる人たちを見ながら考え歩く。

僕がこれから行く中学校、R中学校は市立校。
通学路的には、先月まで通っていた小学校より少し遠くなっただけで、特に何も変わったことはない。

なのになんでこんな新鮮な感じがするんだろう。

新しいものがたくさんあるからかな?

新しい鞄、新しい靴、新しいコート、
「そして新しい制服…」
嫌だわー。スカート。
走ったらめくれそうになるし。寒いし。
やだやだ!こんなの!
「学ランが良かったー!」
男子はいいなー。

…くだらないな。この回想。
いいのか。初日がこんなんで!
「はぁ…ま、いっか。」

まだまだ小学生が抜けないようだけど、古咲知景は中学1年になりました。