秘密の時間



部長に頼まれてた仕事は大した時間も掛からず終わった。



だからそれを持って、ひっそりジュースを書類の下に忍ばせて、部長の席に急いだ。



「ぶ、部長、出来上がりました」

「早かったな。ありがとう。お昼行って。少し遅くなっても構わないから…」



部長は書類には目もくれず、自分の仕事に押されている。



そんな部長を見ていたら、やっぱり、渡すきっかけを無くしてしまった。




部長の前に立ち止まったまま動かない私。


そんな私に気付いた部長は手元の書類から目線を上げる。



「中村、どうかしたか?」

「えーと、こ…これ…」



書類の下に忍ばせたスポーツドリンクを部長に見せる。


ふと不思議そうな表情の部長が私をじっと見つめている。



「あ、あのー…、具合悪そうだから、そのー…、飲んでください」



ペコリ、頭を下げて素早く差し出す。



受け取って貰えた事を確認する間もなく、踵を返すと部長がふっと小さく笑みを漏らす。



それがどんな意味か解らないが、でも、受け取って貰えただけでも、嬉しかった。