秘密の時間



「おい、お前等まだ残るのか?」


突然戸口から部長が顔を出した。



「あっ、いいえ、もう帰ります」


慌てた様子の恩田さんはそう言ってそそくさと自分のコートを掴んだ。



その様子をただ見ているだけの私。



「中村さん、行こう」そう腕を引く彼に引っ張られながら私も自分の荷物を手に、部長のいる戸口へ向かった。



「恩田は、出ないのか二次会?」


「あっ、えーと、中村さんが酔っ払ってるみたいなんで…」


「だか、外でみんな恩田の事待ってたぞ!」


「えっ…」


「ほら、中村も二次会。若いんだから出ないとな!」


「いいえ、私はもう眠いので帰ろうと…」


「……」



突然会話が止まってしまった。


えーと…


「そうか、俺帰るから送ってくか…」


部長がぼそっと呟いた。


「えっ、部長は出ないんですか?」


恩田さんが意外そうな声をあげる。


「俺が出たら、お前等気が抜けないだろ!」


「まぁ、確かに…」



恩田さんはそう口にして慌ててつぐんだ。


「ほら、恩田だけでも行ってこい!
中村は俺が送っとく」



でも…、と言い淀む恩田さんの背中を部長は押す。



「じゃあ、行ってきます!」



そう言うと、繋がれていた手は離れ、恩田さんは出口に向かった。