『自分が一番』『自分に素直になる』??
マスターの言っている意味は分かるようで分からなくて、私は再びマスターを見詰めた。
「お待たせ、美優。
あれ、マスターと何か話してたの?」
マスターはカウンター内に入って、何が仕込んでいるらしく忙しく手が動いている。
私は巧さんの声掛けで、彼の方に振り向いた。
「あ、あのね巧さん、これご馳走になってたの」
手の中にあるカップを示すと彼もまたさっきまで座っていた席に腰をおろした。
「よかったな、美優。
じゃあそれ飲みきったら帰ろうか。俺も何か貰おうかな。
マスター、俺にもホット1つ」
そうマスターに声を掛け、彼は私に目線を移した。
外から戻って来たばかりの巧さんは少しだけ雨が掛かったのか、前髪が少しだけ濡れていた。
私の手は知らず知らずにその前髪に伸びていた。
「雨に、濡れちゃったんですね」
まだ外の冷たい空気を纏う巧さん。
触れた指先から、その冷たさが少しだけ伝わってきた。


