私の知ってる部長は……巧さんは、こんな気弱な部分を持っている人だっただろうか?



会社での巧さんはいつだって誰からも頼れる頼もしい上司だったし、私とふたりっきりの時だっていつだって私を包み込み優しさに溢れていた。



そしてそんな彼は、今目の前にはいない。



今目の前に居る彼は、私の知らない大人の哀愁を湛えた男の人。



左手に嵌められた指輪はもの凄く嬉しいのに、そんな彼を目にして私の気持ちは複雑に絡まる。



やっぱり恋愛って難しい。



好きや愛してるだけじゃあ、どうにもならない。



どうにもならない。って分かっているのに、溢れ出す思いは止める事が出来ない。




ーー今の私はどうしたらいい?




湿り気を帯びた風に吹かれながら、私の身体からは体温が少しずつ奪われるのを感じずにはいられなかった。






「美優、冷えてきたから中に入ろうか?」