秘密の時間



口先に触れる柔らかい感触に驚きながらも、少し自分と違う体温に戸惑いは隠せない。



離れたかと思うとまた私の唇に落ちてくる恩田さんの唇は、優しいのにどうしても受け入れられない私がいた。


恩田さんの唇が離れた一瞬を狙って、ふと顔を背けると彼もゆっくりと私から離れてゆく。



「ごめん…。ダメ、だった?」

「……」



なんて答えたらいいんだろ?


黙ったままの私に、恩田さんはまた身体を寄せ、今度はギュっと抱き締める。



だけどそれもしっくりこなくて、私は彼の胸をそっと押した。


簡単に離れた彼の身体は、それでも名残惜しそうに手だけは私の肩にあり、俯いている私を真っ正面から見下ろしている。



本当にどうしよう!?



そんな時頭に浮かんだのは何故か部長のあの困った顔で、私またあの時同様涙が垂れそうだった。


でも…。
ここで泣いたらいけない気がする。


なんとなく抜け切らない恩田さんへの警戒心が、そう思わせる。



だから私は…



「お…恩田さん今日はご馳走様でした。

さようなら…」




急に立ち上がりそう言うと、私は走り出していた。