残りの仕事をすぐ切り上げるから。と彼は私に伝えると、非常階段のドアに手を掛けた。
そして、私を背にしたまま小さく呟いた。
「美優、もっと俺を頼れよ。それとも俺じゃあ頼りにならないか?」
心許ない小さな呟きに私は部長の背中見つめる。
違う! そんな事ない!!
そう伝えたいのに、言葉がうまく出てこない。
そうこうしてるうちに、重い扉は閉じ、私一人取り残された。
部長の気持ちなんて考えた事もなかった。知らなかった。気付かなかった。
ただ、私なりに部長に迷惑は掛けたくなかった。
部長の足枷になるような噂なんて、出来れば私一人の力で揉み消したかった。
けど、そんな力も度胸もない私。
ただおろおろと困った顔をしていたら、誰にだってばれてしまう。
ましてな年上の部長なら尚更。
これ以上彼に心配を掛けないためには、ちゃんと話すしかない。
恩田さんとの事を。
包み隠さず話したほうが、いいのかもしれない。
そう思った私はギュッと握りこぶしに力を込めた。


