秘密の時間



社を出て、駅までの道のりをふたりで歩いた。


部長も電車通勤らしく、自然と足が同じ方向へ向いた為、何となく肩を並べ歩いた。


「中村は彼氏とかいないのか?」



夏も終わり空気が少し冷たく感じるこの季節。


泣き腫らした顔に当たる風は心地よくても、肩先や指先はほんの少し冷たい。


だから羽織っていたカーディガンをそっと胸元で手繰り寄せる。


「あっ、今のところは…居ませんけど…」



部長の質問に返した答えは、寒さに震える弱々しい声で何だか情けなかった。


あーあ、モテない女なんだ。

そんな風に思われたかな?

だけど実際今のところは『彼氏』と呼べる存在はいないのでそう答えるしかない。



で、なんでそんな事聞かれてるんだろ?


そっと隣を覗き込むと、声を殺して肩を震わしていり部長の姿が目に入った。