結局ミリアが選んだのは、両親に逢いに行く事ではなく、疑問を解決する道だった。
こっそりと城を抜け出して、昨日歩いた道を歩く。
程なく見えてきたのは、相変わらず霧に包まれた森だった。
目の前の橋の向こうに、見覚えのある水色の少女が立っていた。
「レイシア」
少女も気がついたのか、安堵したような表情でミリアに手を振った。
「ミリア!」
泣いていたのだろうか。
殆ど飛び込むような形でミリアの腕の中にレイシアが抱きついてきた。
柔らかな髪が跳ねて、レイシアが顔を上げた。
「きっと来てくれるって思ってたわ…」
しゃくりあげながら訴える様は、どう見ても幼い少女に見える。
不安で仕方がない、というように、水色の瞳が所在無げに揺れている。
「どうしたの、レイシア」
落ち着いた口調で問いかけると、レイシアは僅かに震えながらミリアに抱きついている。
「私…」
何か言いたげに口を開きかけ、その瞳が一点を見つめて固まる。
何事かと首だけで振り返ると、そこにはセイドリックが立っていた。
「こんにちは」
昨日と変わらぬ様子で、彼はそう言った。
「セイドリックさん」
ミリアが声を掛けると、一瞬だけセイドリックの紫の瞳が細められる。
「彼とは仲直りしたの?」
ミリアはレイシアのことをぎゅっと抱きしめたまま頷いた。
レイシアは、昨日までとは打って変わってセイドリックをバケモノでも見るような目で見ている。
「どうしたの、レイシア?」
優しげな瞳で声を掛けられても、レイシアは動かない。
その様子に苛立ったのか、セイドリックは小さく舌打ちをした。
「まぁいい、三日後にはまた逢えるんだしね。レイシア、君は今更逃げられないよ」
にこりと微笑むと、いつの間に来ていたのか大きな黒い鳥にセイドリックは跨った。
結局、レイシアはセイドリックが遠くの空に消え去るまで、何も喋ることはなかった。
「大丈夫?」
「ええ…お願いがあるのよ、ミリア…」
青ざめた顔でレイシアはミリアのドレスの裾を掴んでいる。
ミリアはレイシアの頭を撫でてやると、落ち着かせるように背中をとんとんと叩いてやった。
「ライネに逢わせて…お願いよ」
ミリアとしても断る理由もなかった。
どう見ても様子がおかしいレイシアと、驚くほど冷たいセイドリック。
判断のつけようがないが、ライネに状況を説明することが必要だと思った。


