酷く疲れ果てていた。
ミリアは自分の部屋へ入ると、倒れこむようにしてベッドに身体を沈めた。
お気に入りの洋服が皺になるのも、今は気にする余裕もないほど。

 ふと気がついて、ミリアは手に持っていた封筒の表を見つめる。










    ミリア・レッドフィールド様










朱色のインクでそう書かれているだけの、何の変哲もないシンプルな封筒。
 ミリアは意を決して、その封筒を開いた。
ピリピリと軽快な音が鳴り、封筒の中から少し黄色味がかった便箋を取り出した。

「親愛なる、ミリア・レッドフィールド様」

手紙のはじめは、そんな書き出しだった。









    親愛なる、ミリアレッドフィールド様


  突然のお手紙をお許しください。ですが、事態は急を要するのです。
  どうか、私の願いをお聞き入れいただき、貴女が素晴らしいクイーンになられますことを。



              グリーンゲート城主
            ライネ・グリーンゲート









 あまりにも短いその文章に、ミリアは一瞬、出し忘れたもう一枚の便箋が封筒に残されているのではないかと思った。
そんなことはなく、この不可解な内容の手紙は、たったこれだけの文字数でミリアに「何か」の「願い」を聞き届けるように懇願していることだけはわかった。

 そもそも、グリーンゲートなどという城にも聞き覚えなどなく、親戚にそのような立場の人間がいることも聞いた事がない。
ミリアの家は、よくある普通の階級の、普通の家だった。
手紙の中にあるクイーンという響きも、全く理解出来ない。
ますますミリアは首を傾げるしかなかった。

「そもそも、願いってなんなのよ」

思わず零れ落ちた疑問に答えなどあるわけもなく。
ミリアは小さなため息を零すとベッドから起き上がった。

 兎に角、父親か母親が帰ってきたら、この手紙のことでも聞いてみよう。
そう思い至ると、元通り手紙を封筒の中に仕舞い込んだ。

 その時、特にミリア自身は意識したわけではないのだが、ふと窓の外を見てぎょっとした。
そこにはいつの間にいたのか、大きな鷹が止まっていた。
窓は確かに閉まっているから、襲われる心配はない。何よりミリアが驚いたのは、鷹が居た、という事実ではなく、その鷹の「格好」だった。