途方に暮れたように呟いて、ミリアは尚も考えた。

「…そうよ、一つだけ方法があるわ」

とてもいい考えだ。ミリアは微笑むと立ち上がった。

「ライネさん、私クイーンになるわ。そうよ、それしかないわ」

「ど、どうして急に?」

ライネは驚いて目を見開いた。
ミリアは胸を張ると、ライネの瞳をじっとみつめた。

「こんな時に言うのもなんだけど…私ね、多分あなたのことが好きよ。大好き。あなたの愛した人は、あなたを愛したから魔女に狙われたのよね?それなら簡単よ、これではっきりするわ。私があなたを好きなんですもの、きっと魔女は現れる」

確信をもった言葉でミリアが言うと、ライネは途端に青い顔をした。

「だ、ダメだ!君の言うとおりなら、それはつまり魔女に負ければ君まで…」

「大丈夫よ。私、こう見えても頑固なの。それよりも…一つ気になる事があるの、ライネさんにも協力してもらいたいんだけど」

「…どうして、そんなに冷静なんだい」

狼狽したライネに尋ねられ、ミリアは小首を傾げた。

「どうしてかしら…多分、あなたのためだからよ」

きっぱりと言いながら微笑む姿を見て、ライネは僅かに赤面した。
それは本当に不意のことで、ライネはばつが悪そうに瞳を逸らすと小さく咳払いをした。

「それで…気になることとは?」

「えぇ、レイシアとセイドリックさんのことよ。今日彼らと話してなんとなくだけど気がついたんだけど…つまりその、セイドリックさんは、花嫁としてレイシアを呼び寄せた、っていう認識で合っているわよね?」

「あぁ、そうなるね」

ライネが頷くのを確認すると、ミリアはすっと目を細めて口を開いた。

「つまり…あの二人も、魔女にとって邪魔なんじゃないかしら?」

ミリアの放った言葉に、ライネは今度こそ顔色を変えた。

「君は…」

冷や汗を拭おうともせずにライネはミリアを見つめる。

「あの二人のどちらかが…そうだといいたいの?」

「そこまでは言ってないわ。ただ、あの二人も狙われるんじゃないかしら、と思って」

真剣な表情で言われ、ライネは慌ててテーブルの上のベルを鳴らした。
 程なくして、ベルを聞きつけたサー・ニコライが飛んできた。
場の空気に圧倒されながら、ライネがかいつまんで今までの話を彼に話す。
その間、ミリアはもう一度今日一日の出来事を思い返す。
 ネーネが迎えに来て、宛がわれた部屋に行ったときに見たのは、確かに水色のドレスだったはずだ。
それはつまり、レイシアがこの城の近くでずっとこの城の様子を伺っていたということになる。
偶然を装ってミリアに近づいたのにも、何か訳があるはずだった。
 彼女は何と言っていただろうか…そこまで考えて、ライネとサー・ニコライの会話が終わりかけているのに気がついた。

「では、至急連絡を取りたいとお伝え致します」

サー・ニコライが飛び去るのを見送りながら、ミリアはライネに向き直った。

「ライネさん」

声を掛けると、ライネが微笑み返してくる。
ミリアは思い出しつつ先ほど一人で考えていたことをライネに告げた。

「つまり?」

「レイシアは、一人でこんなところまで何故来たのかしら?」

レイシアが魔女―…とも考えられるし、セイドリックが魔女になりかわっていて、その異変を伝えたくてやってきた、とも考えられる。
それを判断するには、ミリアは彼らのことをあまりにも知らない。

「…難しいところだね。さっきも言ったけど、魔女は誰にでもなれるかわりに何にもなれない。とても曖昧な存在だ。見分けるのはかなり難しいだろう」

「でも、見分けた人がいるから本になっているのよね?そうよ、この本を書いた人は?」

「そうか…確かに、この本の著者なら或いは…」