なんでも一人で完結してきた
そういう癖がついていた。これまでの病気も出産も。生活も。
夫に頼ったことなど1度もない。全部自分で切り抜けてきた。
夫もそういいうものだと思っているのだろう。
今回の入院もその延長線上にあって、例外ではなかった。はずだった。
こんなにも家族が恋しくなるとは思ってもみなかった。
10日間の予定で検査が始まった。でも1週間でほぼ終わり、昨日検査結果について
て話があったものの、検査は明日まで続くらしい。
血液を採るよ。僕が採るから・・・・あとで・・・・」
そう言って医師は部屋を出て行った。
遺伝子検査だった。原因のないこの病気では遺伝子が関係していることも
多いらしい。そうなればうちの子供たちも発病の可能性が出てくる。
そうなたったら不の連鎖は永遠に続く。あー神様
私だけでこの不幸を断ち切れますように。
ほんとに目に入れても痛くない子供たちだ。
「準備できたよ」先生本人が呼びに来た。
「なんでも自分でやるのかしら・・・・・」
2人でナースステションに向かった。
「2本採るから・・・」と言って採った血液を入れるビーカーのようなものを見せた。
まるでおもちゃを持たせた子供のようだ。
私の血管に針が入る。
医師はさっきとは別人のように無言で意識を集中させてるように見えた。
採血中、片時も針から目を離すことはなかった。
「ちかい・・・」家族以外の男性の顔がこんなに近いのは久しぶり。
真剣なその横顔に思わず見入ってしまった。 ある意味どきどきする。
長く感じた。まわりは他の患者たちが騒いで賑やかだったが、
自分のまわりはまた音が止まったような静寂を感じた。

自分の腕を見ると白くて病人のようだった。けして若い女性のそれではない。
いつのまに年を取ったのだろう。この前まで「お嬢」と呼ばれていたはずなのに
時計もしてなかった。
そういえばこの病院にきて1度も私は時計をしていない。
いつも時間に追われていたので寝るとき以外は時計を外したことがない
どころか遅れてもいいように腕時計もケータイも時は進ませてある。
でもここは時計なんかいらなかった。
朝、目を覚ますと、ゆっくり時が過ぎてゆく。特に午前中は長かった。
入院してからは午前中2つ、午後に1つのスケジュールで検査をし、
最初の1週間がすぎていった。土日はなにもなく医者もおらず
退屈だったので外出許可をもらい街にでた。
久しぶりなせいか街の明るさに立暗みを覚え、
足元もふらついた。
買い物くらいしかすることはなかった。
まだ1月の半ばであったのにもう春物が出ていた。

病院で着るときのためにTシャツ2枚買って帰った。
外での時間は早かった。あっという間に門限の4時だった。
 入院も2週目に入ると、昨日遺伝子検査の説明と称して
告知もあったので明日の検査を残して予定は終わり。
ほら1箇月もいらなかった。
でもせっかく取った休みなので切り上げず当初の予定まで入院
することにした。
明後日から週末まではリハビリだけのメニューだ。
私のような病気の場合、家族との関わりが重要なので
告知は家族にもする必要がある。
退院は夫に来てもらわざるをえなくなった。 
夫が来るまで三日間あったので、相変わらず1人で病室の闇に耐えなければならなかった。
でも3日も経つと、心はいくらか楽になっていた。
あきらめに似たものだったかもしれない。
未来を想像することをやめたのだ。