時は戻り、月を雲が隠す頃。振り上げられた刀は月光を受け輝き閻魔の瞳に映る。
鬼の頭領、閻魔。大事な者を殺し、己を奈落の底に突き落とした元凶。
赦す訳にはいかない。赦せるはずがない。幸せなものになるはずだった彼等の未来も、俺の未来もこの憎き鬼に全てを奪われたのだから。
例えここで命を落とす結果になろうと、こいつを殺すまでは決して刀を離さない。
鬼のお前に本物の地獄を見せてやる――
音もなく、閻魔の頭と身体は離れ頭は回転しながら宙に舞う。あまりに速い桃太郎の残撃は、閻魔の頭を眼球も飛び出ることなく綺麗に残した。
行き先を無くした血流は首から勢いよく吹き出し、桃太郎は血を受ける。同時に、閻魔の頭が地面へと落下した。閻魔の目は見開かれたまま、桃太郎と己のものだった身体を見ている。
桃太郎はそんな閻魔の頭に冷ややかな視線をやると、口角を上げ怪しい笑みを見せた。
「まだだ、二人の味わった痛みをお前にも味わらせてやる」
首の無い閻魔の身体へ視線を向けると、刀で閻魔の身体にぶつける。何度も何度も串刺しにし、血など出ないほどに肢体を切り刻んでいく。桃太郎が刀を振るう度、血液を含んだ筋肉の筋がぐしゃ、と音を立てた。死ねない鬼は、雄叫びにも似た悲鳴を上げる。
「首が離れているのに痛覚は繋がっているのか。これで死ねないとは憐れだな」
原型など分からぬほどに肢体を切り刻んでいく。
味わえ、もっとだ。二人の味わった苦しみは痛みはこんなものじゃない。
憎い憎い憎い憎い。足りない。まだ足りない。足りない。
「足りない……」
「若君!」
桃太郎の人とは思えぬ仕業に見かねた百済が止めに入る。高麗も新羅も、百済の後を追ったが、桃太郎の異様な様子に近づけずにいた。
「若君、それ以上はお止めくださいまし。これ以上は人の領分を越えた業……鬼になってしまいますわ」

