「主は狂ってしまわれた……!!鬼の穢れた血を浴び鬼になってしまったんだ!姫巫女、お前巫女だろ!主を助けろよ!」
「そ、れは……」
出来ない。今の己では、桃太郎を止めることは……
己の状況も伝えられずにいる姫路は、新羅の懇願に酷く狼狽える。更に百済の憂いを帯びた気は姫路の心を掻き乱した。言わねばならない。巫女の力が失われていっていることを。そして何とかしてこの戦況の打開策を打ち出さなければ。
「高麗殿、百済殿、新羅殿。誠に言い出しにくいのですが……私の巫女の力は、先程から薄れていっているのです」
「……は!?なんだよそれっ!」
姫路の言葉に真っ先に反応を見せたのは新羅だった。批判を受けるのは覚悟の上。姫路は怒気を孕んだ新羅を覚悟を持って見つめる。新羅は姫路を掴もうと一歩前へと足を踏み出した。しかし新羅の行く手を、高麗の腕が遮る。
「姫巫女殿、その久世の退魔の巫女の力、この高麗に譲ってはくれないか」
「なっ、高麗っ!?」
「高麗殿、何を仰って……」
予想外の高麗の発言に、新羅と百済は先程の姫路と同じく狼狽える。姫路は驚きを隠せぬようで、唖然としていた。
巫女の力は本来生まれつきで、久世の巫女の歴史上、そのようなことが出来る記述など見当たらなかった。あったとしても久世の巫女が他に、しかも久世家以外の人間に渡すことなどしないだろう。
久世神に世を任された久世にとって、久世の力を受け渡すのは久世神への最大の裏切り。
しかし巫女の使命よりも紅蓮を選んだ今、久世神への裏切りは既に成されている。それ故巫女の力は薄れ始めているのだろう。
このまま決断を渋り時間を伸ばしても戦況は悪くなる一方だ。それに、いづれ力は失われる。それならば、失われる前に引き継ぐまで。
裏切った罰も、紅蓮と桃太郎を救えるのならば甘んじて受け入れよう。
「分かりました。高麗殿、貴方にこの久世神の力を引き継ぎましょう」

