再び刀のぶつかり合いが始まった横で、姫路は立つことが出来ぬまま地へと膝を着けていた。紅蓮と桃太郎の戦いを止めたくとも、巫女の力は失われていく一方でどうすることも出来ない。このままでは予言の通り紅蓮は桃太郎に討たれてしまうと言うのに。
焦りと姫路の元に、三つの影が迫る。
「姫巫女殿……!」
「高麗殿……それに百済殿、新羅殿」
「御無事で何よりですわ」
「お三方も……」
御無事で、と告げようとしたが、桃太郎のことを思いだし言葉を呑み込む。それに三人に目立った傷はないが、醸し出す雰囲気は暗い。何とも口を開きにくい雰囲気だが、このまま黙っているわけにはいかない。
「桃太郎殿に一体何があったのですか?」
己の知らぬ間に一変した戦況。閻魔は桃太郎の手によって討たれ、頭と身体は切り離された。紅蓮を目の敵にしていた桃太郎にとってはまだ悲願を達成したとは言えないかもしれないが、鬼の頭領を討ったとあればもう戦いは終わったも同然。
なのに何故、桃太郎は戦い続けるのだろう。
鬼の血を浴び、狂ったように刀を振るう桃太郎はもはや鬼神そのものだった。
「そんなの、俺が知りたい……!!」
新羅は拳を握りしめ、叫ぶ。白き猿の面は三者の誰よりも血にまみれ、より迫力を醸し出す。
幼い新羅の心の震えが、失われていく巫女の力を通して伝わってくる。
「なんだよ、主はどうしたんだ!あんな、あんなの……!!」
鬼の所業だ……!!
空中に跳ねた鬼の首。死してなお無様に切り刻まれる肢体。血が四方に飛び散り、地を汚す。酷く鉄を帯びた臭いは、胃に届き吐き気を呼ぶ。
新羅の見た映像は姫路の脳に届き、姫路はおぞましい光景に己の身を抱き締めた。
肢体を切り刻む桃太郎の紅い瞳は、復讐と狂気が合わさり酷く美しく光っていた。それが更に身体を言い様のない恐怖に震わせる。

