鬼祓う巫女



姫巫女の涙が己の着物へ染み込むのを感じる度に高鳴る血と鼓動。姫巫女を引き裂こうとする鬼の血脈。それは己が鬼である証。しかしそれ以上に、姫巫女への恋慕が勝っている。


「花嫁の印を解くことは出来ない。例え解けたとしても、解く気など毛先もない」


「それでは紅蓮、貴方の命が……!」


顔を上げ紅蓮を案ずる言葉をかけた姫巫女を金色の瞳で捉える。そして姫巫女の言葉を食べるかのように、紅蓮が姫巫女の唇を塞ぐ。


「鬼の寿命は人間の寿命の遥か上を行く。俺が生きている間はお前を手放すつもりはない。姫路、お前はもう俺のものだ」


唇を離すと、紅蓮は姫巫女にそう告げた。



何度繰り返し、想った言葉だろう。


姫巫女は熱の集まった唇に目眩がしながらも、紅蓮の告げた言葉を考える。



忘れた日などなかった。紅蓮に花嫁の印を刻まれたあの日。紅蓮の告げた言葉が現実になるのを、誤魔化しながらも何度夢に見、瞼の裏で繰り返したことか。

熱烈に記憶に残ったあの言葉が、現実になることなどないと思っていたのだ。ましてや、こんな事を言うなど思ってもみなかった。


「紅蓮、ならば私は反対に“私”の全てを手離しましょう。私は貴方のものなのですから」


『姫巫女』である己。『姫巫女』を手離すということは、姫巫女の役割も運命も、姫巫女を信じていた者達も捨て、本来の『姫路』に戻るということ。


『姫巫女』の役割を捨てることがどれ程罪深く赦されることではないとしても。久世の神の御心を裏切り天罰が降るとしても。私は紅蓮と共に生きていきたい――



紅蓮は姫路を見つめていると、姫路の額にあった久世の姫巫女の印が薄く消えていくことに気づく。姫路も違和感を感じたのか、額に手を添えた。


「額の印が消えた……?」

「何故……」


額に添えていた手を見つめるも、答えは出ることはなく。前代未聞の出来事に驚くと同時、姫路は己の中の異変に気づく。



「巫女の力が…薄れていく……」